慢性下肢動脈閉塞症(PAD)井上病院

慢性下肢動脈閉塞症(PAD)には、高齢者に多い閉塞性動脈硬化症と若年喫煙者に多いバージャー病がありますが、当科を訪れる方のほとんどが動脈硬化を原因とする閉塞性動脈硬化症で、現在ではPADというとおおむね閉塞性動脈硬化症のことを指します。

慢性下肢動脈閉塞症(PAD)とは

動脈硬化の為に血管内膜にきずが入り、それを修復するために血小板が集まって塊を形成することで内腔の狭窄が起こりますが、患者さんの多くは加齢・高血圧・脂質異常症・糖尿病・腎不全などをもっておられます。
この狭窄の程度によって末梢の血流が減少し、下肢の虚血症状が起こるわけです。

診断

下肢の虚血症状についてはFontaine(フォンテイン)の重症度分類が、治療方法との関連でよく用いられます。またPADにおける必須の検査として、上肢・下肢血圧比(ankle-brachial pressure index: ABI、足関節圧/上肢の最高血圧)を測定する必要があり、正常値は1.1程度で、下肢圧が上肢圧よりも約10%高いのが正常です。
ABIが0.9以下になった場合に本疾患が疑われ、0.5以下になるとかなり強い虚血症状が出てきます。ただし下肢の虚血症状(間歇性跛行、疼痛など)は、脊柱管狭窄症・坐骨神経痛などの整形外科的疾患とも紛らわしく、はじめに整形外科を受診される患者さんも多くおられます。
血液検査で本症に特異的なものはありませんが、一般的な血液生化学検査の中でも、基礎疾患との関連において糖尿病、脂質異常症、腎機能障害のチェックは必要でしょう。
確定診断としてはやはり血管の画像診断です。本院ではマルチスライスCTが導入され、CT-アンギオでかなりの部分が診断できるようになりました。
最終的に血管内治療(EVT)やバイパス手術を行う際にはやはり血管造影が必要となりますが、治療方針のおおまかな決定には血管エコー(Duplex scanning)、CT-アンギオ、MR-アンギオなどの非侵襲的画像診断が非常に有用です。

表1.慢性下肢動脈閉塞症の重症度

Fontaine分類 Rutherford分類 ABI
臨床所見 臨床所見
無症候 0 0 無症候 0.9~0.7
IIa 軽度の跛行 1 軽度の跛行 0.7~0.4
IIb 中等度から重度の跛行 2 中等度の跛行
3 重度の跛行
III 虚血性安静時疼痛 II 4 症候性安静時疼痛 0.4~0
IV 潰瘍や壊疽 III 5 小さな組織欠損 0.2~0
III 6 大きな組織欠損

治療方針

PADの管理上最も大切なことは、重篤で致命的であることも多い心臓血管系合併症(脳梗塞・心筋梗塞など)の危険にさらされているということです。
歩行制限自体は最も深刻な問題ではありません。そのため動脈硬化の進行と血栓症の発症に関わるリスクファクター(糖尿病、高血圧、凝固異常など)を改善させるのが大切です。
そのためリスクファクターの高い患者さんに対して必要に応じて循環器科・糖尿病内科・腎臓内科・神経内科の専門医を受診していただくこともあります。
下肢虚血に対する治療適応としては、フォンテイン分類を参考にし、患者さんのご希望を考慮して決定します。(表2)

表2.慢性下肢動脈閉塞症(PAD)の治療方針

フォンテイン Ⅰ度 運動療法と薬物療法による経過観察
フォンテイン Ⅱ度 通常、保存療法から開始されるが、長期の薬物療法で改善しない例、早急な改善を希望され
る例では、血管内治療(EVT)やバイパス手術が適応となる。またABI<0.5では手術を進める
べきである。
フォンテイン Ⅲ度
フォンテイン Ⅳ度
手術の絶対適応である。

治療

保存的治療としては、血管拡張作用もあわせ持った抗血小板薬(内服薬、注射薬)に、運動療法を組みあわせて行いますが、ここではその他の治療について述べます。
おおむね病変の部位によって治療方針が異なってきます。

1.大動脈〜腸骨動脈領域

この領域の狭窄病変では、血管内治療(EVT)が第1選択となってきました。
長期開存率も80%以上あり、入院期間も短期で済みます。ただし長い閉塞病変に対してはバイパス手術が必要となりますが、成績はやはり良好です。

2.大腿〜膝窩動脈領域(図1)

初代院長・理事長 井上 隆

この領域の狭窄病変に対しても、血管内治療(EVT)が行なわれることが多くなり、当科でも積極的に導入しています。
しかし、大動脈〜腸骨動脈領域に比較すると成績はやや悪くなります。そのため複数ヶ所の狭窄や長い閉塞を伴う場合にはバイパス手術をお勧めしています。
通常人工血管が用いられますが、長期開存率は5年で約75%前後と言われており、必要に応じて自家静脈を用いたバイパス手術を行っています。

3.下腿動脈領域

この領域の病変のために症状を伴っている場合には、通常中枢領域(腸骨動脈領域、大腿・膝窩動脈領域)にも病変を伴うことが多く、安静時痛や潰瘍を有する重症下肢虚血の状態となります。
この領域に対しても積極的に血管内治療(EVT)を行って、良好な結果を得ることもありますが、多くの症例は2~3ヶ月で再発することがわかっています。そのため、最終的にはバイパス手術を行うことが多くなっています。
人工血管によるバイパス手術は成績が悪い為、自家静脈によるバイパス手術が行われます。

表3.最近の診療実績

  2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 2018年度
血管内治療(EVT) 82 113 130 130 159 127
外科的血行再建術 27 36 25 31 20 27
合計 109 149 155 161 179 154

最後に

慢性下肢動脈閉塞症の患者さんの多くはフォンテインⅡ度の間歇性跛行を訴えて受診される方が多いのですが、最近ではフォンテインⅢ度の安静時痛やⅣ度の潰瘍・壊疽を伴う重症下肢虚血で受診される方が増えてきています。
重症下肢虚血では、すべて緊急症例とみなし、早急な治療が必要です。

これらの患者さんは下肢切断の高いリスクをもっておられます。また合併症をもっておられる患者さんには、関連する診療科と協力しつつ診療にあたります。

また、当院では上記の重症下肢虚血の患者さんが多いということもあり、「救肢」ということに重点を置いています。「救肢」とは足部の壊死があって切断が必要になっても種々の方法で踵を残すようにして、ご自分の足で歩いていただくようにすることです。

他施設にて下肢切断を勧められた方も、一度ご相談いただければと思います。

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